Mass++とユーザー会の現状

  • 2015年は、開発10年目に突入したMass++にとって、最大の変化が訪れた年でした。開発開始以来、Mass++は「営利企業を開発主体としながらも、公的資金を受けて非営利のソフトウェアとして公開する」という開発モデルを維持してきました。しかし2015年3月20日のオープンソース化以降は、この枠組みが崩れ、Mass++プロジェクトは初めて、公的資金による開発費の裏付けや組織的な人的支援のない状態に置かれています。
  • オープンソース化を受けて、今後のMass++プロジェクトを推進するための活動主体としてMass++ユーザー会が発足しました。ユーザー会には、現時点で16人の方が参加していますが、オープンソース化後、現在までに実際にコードを書くなどの作業を行った人(開発者)は2人、ユーザー会の運営に当たっている人員も3人に過ぎず、しかも、この全員がいわば“手弁当”です。主に、後述する学会発表に際して、ユーザー会メンバーの関係するアカデミックな組織から間接的な支援は受けていますが、プロジェクトの上位に位置する組織や、プロジェクトの成果を報告する義務のある対象は何も存在していません。
  • このことは必ずしもデメリットばかりでなく、第三者からの束縛なく開発を進めていくことができる、ということでもあります。とはいえ、財政的な裏付けのないプロジェクトが不安定なのは言うまでもないことで、一般に「オープンソース化されたプログラムの6割は、1年以内に消える(活動を停止する)」とも言われています。実際、ご承知のように、Mass++も現時点ではメーリングリスト等のオープンな場での情報交換は低調で、「殆ど実施されていない」という状態です。海外からは休眠プロジェクトに見えるかもしれません。
  • 今年のMass++プロジェクト(ユーザー会)の活動は、一言で言えば、「(上記の)『1年で消える』プログラムに本当になってしまわないように、とにかくできることから活動し続ける」ということに尽きました。具体的には、主に以下の活動を行いました。

 

対外発表

  • 特に最後の学術発表についていえば、国内学会であること、ポスター発表であることなど、学術的“業績”或いは宣伝効果の点からは如何にも不充分なものでしかありませんが、例えば学会の参加費や出張旅費などがどこからも出ない、全て“手弁当”状態であることを考えれば、それほど不満を感じる成果でもない、と考えています。
  • なお、今年はGIW(International Conference on Genome Informatics、1990年に東京タワー横の機械振興会館で公開ワークショップとして開始され、Genome Informatics Workshopを経て正式に国際シンポジウムになった、バイオインフォマティクス分野で最も歴史の長い国際学会)が横浜で行われたので、ここで発表することも計画していたのですが、残念ながらそこまでは手が回りませんでした。

 

開発の進捗

  • 肝腎の開発では、まず、オープンソース化されたソースコードを実際にビルドするためのコード整備を行い、オープンソース化後初めての暫定版(ver.2.7.5)をリリースしました(2015年6月)。
  • 次に、プロテオーム解析用のピーク検出プラグインを新規に開発し、OpenMS プロジェクトで開発されたピーク検出機能を呼び出せるようにしました(2015年7月)。この開発は、以前の主要なピーク検出機能が、ソフトウエア特許を含むために公開されなかったことを受けて行われました。しかし、一部の機能に不具合が見つかっており、現在もなお、修正は完了していません
  • 以上、全般的に、(人員・資金の両面で)開発リソースが逼迫しているため、当初の目標のようには進まない状態が続いています。特に重要な作業として、オープンソース化の際に当面の公開が見送られた「I/Oプラグイン」の復活が残ります。
  • I/Oプラグインは、各質量分析計ベンダーの独自フォーマット・データファイルをオープンする(読み込む)機能であり、Mass++の(少なくとも現時点での)大きな特徴の一つです。公開が見送られたI/Oプラグインは、権利関係の法的問題をクリアしているとされてきたものなので、公開されなかったことは率直に言って理解に苦しむところなのですが、いずれにせよ、これの早急な復元が、我々にとっての優先順位第一位の作業です。
  • 残念ながら、開発リソースの逼迫という問題がまだ解決できないため、I/Oプラグインの復元、特に要望の高いThermoFisher社のデータファイル読み込み機能の復活(更新)については、2016年3月以降までずれ込む見通しです。
  • なお、I/Oプラグインを含むMass++の実行ファイルは、2016年正月現在では、ver.2.7.4が島津製作所からダウンロードできますので、ファイル・オープン機能が直ちに必要な方は、一時的に島津製作所バージョンを利用することをご検討くださいhttp://www.shimadzu.co.jp/aboutus/ms_r/masspp.html)。

 

今後の開発

  • 2016年の開発では、我々は以下のようなことを目標にしています:
    • 2015年の積み残し作業、特にThermoFisher社をはじめとする企業フォーマット・データファイル・オープン機能復活
    • 実際にMass++を用いて研究している研究者とコラボーレションした形での開発
    • ユーザーマニュアル・開発者マニュアル(特に英語版)の整備
  • なお、研究者の方のインセンティブの観点からも、今後は新たな論文の発表も視野に入れていくつもりです。

 

今年2016年が、充実した年でありますように。

A Happy New Year!